
こどもの頃、夏、鰻が食卓に並ぶ日がありました。両親がさかんに土用の丑の日だからと言っているのを、鰻を頬張りながら「土曜のウシの日?」「なんで鰻?土曜日でもないし。まあ美味しいからいいか。」と受け流していた記憶があります。
そんな私は、土用丑の日が、夏だけではなく年に約6日あると知って驚いてしまいました。「何故、土用丑の日に鰻を食べるのか。」こどもの頃からの疑問に決着をつけたいと思います。
◆目次◆
1.土用丑の日とは
2.土用の歳時
3.鰻の栄養価
4.まとめ
1.土用丑の日とは
1-1 土用とは
まず土用についてです。
古代中国の五行思想(または五行説)では、万物は「木・火・土・金・水」の5種類からなると考えられ、それらが互いに影響を与え合いながら、天地万物が変化、循環するとされ、四季の変化や自然現象、政治体制、医療などの背景が説明されてきました。

五行思想では、
木は、樹木が成長する様、勢いを表しており「春」の象徴です。
火は、火が燃え盛る様、勢いのピークを表しており「夏」の象徴です。
金は、金属のような安定を表しており「秋」の象徴です。
水は、エネルギーを秘めつつ静まり返った様を表しており「冬」の象徴です。
それでは「土」は何を表すのでしょうか。土は、種が芽生える様、芽生えや保護を表しており、「季節の変わり目」の象徴です。
土用は、各季節の始まりである立春・立夏・立秋・立冬の前、約18日間を表しており、一年に4回あり、その初日は土用の入りと呼ばれます。
季節を分割する方法には、平気法と定気法があり、それぞれ季節の開始日が異なります。
日本の国立天文台では、平気法によって土用の日を発表しています。平成30年は7月20日が土用の入りとなっており、立秋の前日8月6日が土用の明けとなります(注)。
(注)もともと立秋など季節の始まりの前日(土用の最終日)は節分と呼ばれており、土用とは区別されていましたが、現在では立春(平成30年度は2月4日)の前日のみ節分となっています。
1-2 丑の日とは
次は丑の日です。
ここで表される丑は、十二支(子、丑、寅、卯、辰、巳、午、羊、申、酉、戌、亥)の丑のことで、十干(甲、乙、丙、丁・・)と組み合わせた六十干支をもとに各日に割り振られています。
夏の土用丑の日が2日あることもまれでなく、一の丑、二の丑と呼ばれます。平成30年は7月20日が一の丑、8月1日が二の丑となります。
2.土用の歳時
夏の土用は良い季節ではなく、暑さに対抗するため各地で様々な歳時が催されました。銭湯で桃葉湯を炊いたり、かき餅と椎茸を入れた汁を食べたり、刻みニンニクやニラ、小豆や小豆餅を食べたり、油揚げや梅干しを食べたりしていました。
昭和に入ってからは、土用入りの小豆、ニンニク、土用玉子、土用シジミ、そして丑の日に鰻が食べられ、土用見舞いとして親類縁者間で素麺やスイカなどを贈り合う習慣もあったそうです。
丑の日に鰻を食べる習慣は、比較的最近の習慣のようで、第一のことでもなかったようです。
諸説ありますが、江戸末期に平賀源内が、知り合いの鰻屋さんが暑いのでお客が来ないとボヤいていたので、「本日土用丑の日」と大書して店先に張り出してあげたところ、次から次へとお客が店に押し寄せたという逸話が「土用丑の日の鰻」の始まりと言われています。バレンタインのチョコのようなものですね。
いずれにしろ、暑い夏を乗り切るため、栄養があるものを食べることが一番と知っていた先人達の知恵が「土用丑の日の鰻」を生みだしたではないでしょうか。
3.鰻の栄養価

それでは鰻の栄養価を見ていきましょう。
まずカロリーですが、蒲焼きで293キロカロリー(100g当り)、白焼きで331キロカロリーですので、エネルギー源として十分と言えるでしょう。
たんぱく質は、蒲焼きで23グラム(100g当り)、白焼きで20.7グラムとなっています。
アミノ酸で見ると、必須アミノ酸全てを含む豊富な種類のアミノ酸を含んでおり、なかでもグリシンは、他の魚介類と比較しても多く含まれています。
グリシンは、眠りを深くする効果があるアミノ酸で、皮膚のコラーゲンを構成するアミノ酸の1/3はグリシンです。
カルシウムも小骨が多いことなどから150ミリグラム(100g当り)含まれています。
ビタミンでは、レチノール(ビタミンAの一種)が突出して含まれており(1500㎍/100g当り)、とくに肝に多く含まれています(4400㎍/100g当り)。
レチノールは、視覚の正常化や感染予防などに効果があります。過剰摂取は頭痛や吐き気などにつながるので注意しましょう。
脂質は、蒲焼きで21グラム(100g当り)、白焼きで25.8グラムと多めですが、その内容を脂肪酸(脂肪の主要構成成分)で見ると、必須脂肪酸とされるリノール酸が440ミリグラム(100g当り)、α―リノレン酸が84ミリグラム含まれています。
α―リノレン酸は、脳や神経の働きに深く関与しており、生体内でEPAやDHAに変換されます。
EPAやDHAそのものも、それぞれ750ミリグラム、1300ミリグラム(蒲焼き100g当り)と豊富に含まれており、良質な脂肪を豊富に含む食品と言えるでしょう。
4.まとめ
日本鰻はマリアナ海溝で生まれ、生態はいまだ不明な部分が多いそうです。乱獲で個体数が減り絶滅危惧種にも指定されています。
現在、食卓に並ぶ大部分は養殖物ですが、完全な養殖ではなく稚魚から育てる養殖だそうです。将来は卵から養殖することも可能になるようですが、今年(平成30年)は出荷量が極端に少ないそうです。
「土用丑の日の鰻」。

将来、鰻を食べられなくなる日がくるかもしれませんが、暑い季節や体調が変化しやすい季節の変わり目を乗り切るには、栄養価の高い食事が第一と気づいていた、先人達の知恵だけは受け継いでいきたいものです。
「ステーキを食べられる土曜日!」ではありませんでした。が、それもありですね。
<参考資料>
大学共同利用機関法人自然科学研究機構 国立天文台ウェブサイト
文部科学省 日本食品標準表 文部科学省ウェブサイト
小川直之 日本の歳時伝承 アーツアンドクラフツ 2013年
林順心 江戸東京グルメ歳時記 雄山閣出版 1998年
