
麹菌とは、わたしたちの食文化の発展や健康に寄与してきた、素敵な菌のひとつです。
その代表である「ニホンコウジカビ」学術名アスペルギス・オリゼは、「オリゼ」とも呼ばれ、国菌とされているそうです。
国歌は君が代、国花は桜と菊、国鳥は雉、は何となく知っていましたが、国菌があるとは知りませんでした。それほど、わたしたちにとって、固有で有用な菌であると言うことなのでしょう。
麹菌について、その基礎の基礎をしらべてみました。素敵な麹菌の世界へようこそ!
◆目次◆
1.麹菌
2.麹菌と発酵食品
3.麹菌と酵素
4.麹菌の美肌効果
5.まとめ
1.麹菌
1-1 麹菌の生い立ち

食物を放置しておくと、カビなど有害な菌によって腐敗してしまいます。ところが、ある種の菌は、食物を分解して新たな成分に変化させ、味を良くしたり、保存が効くようにしたりします。
麹菌はこのような有用な菌のひとつで、食べきれず放置していたお米に付着して、偶然、発見されたようです。
稲穂に付着したカビである稲麹から分離されたとする説もありますが、稲麹は分類学的に麹菌とは遠いようです。因みに稲麹は、稲霊(いなだま)とロマンチックに呼ばれ、実際にこれを使ってお酒を仕込む蔵元さんもいるそうです。
麹菌の生い立ちは、酒作りの歴史と深い関わりがあります。
1-2 麹菌と酒造り

日本酒は、簡単に言うと、蒸したお米を麹菌によって糖化させて「麹」を造り、水を加え、酵母によって発酵させ、搾ることによって造られます。
日本の風土は水耕栽培による稲作が適しているため、必然的にお米が主食となりました。ある時、食べ残した蒸米に麹菌が付着して(原始の麹でしょうか)、雨か何かに浸り(原始の純米酒でしょうか)、それをおそるおそる飲むと、なんだか美味しく良い気分になったのが、原始の(米と麹菌で造る)お酒のはじまりと考えられているようです。
人々は、麹を他の蒸米と混ぜると、その蒸米にも麹菌が付着して麹となることも発見しました。お酒は、神様のお供え物として、あるいは飲酒のため、需要が拡大したと考えられていて、麹菌は、人為的に増やせることもあり、酒造りに欠かせない存在となりました。
1-3 世界最古のバイオビジネス「種麹屋」
人々は、経験的に麹菌によって酒が造れることを知りました。ところが、当初の酒造りは品質が一定せず試行錯誤が繰り返されたようです。
そこで、品質の良い麹を造る麹菌の胞子(種麹)を専門に生産するプロが誕生しました。これが「種麹屋」です。種麹屋は、木灰を添加することによって、品質の良い種麹が生産できることを発見し、酒造りに貢献することとなりました。
花咲か爺さんが、灰で枯れ木に花を咲かせる昔話は、木灰の効果によって、麹菌の胞子が花のように咲く種麹を表した逸話と言われてします。日本では、麹をお米に花がさくことを表して「糀」とも書きますね。
また、種麹は、麹菌が白い菌糸を伸ばしていく姿がもやしに似ていることから「もやし」と呼ばれ、種麹屋を「もやしや」とも呼ぶそうです。
2.麹菌と発酵食品
麹菌は、様々な発酵食品の成り立ちにも深く関わっています。
醤油は、蒸した大豆に炒った麦を合わせながら種麹を入れて麹を造り、この麹に水や酵母を加え熟成、火入れ、濾過することによって造られます。
味噌は、様々な種類がありますが、種麹によって大豆などの原料から麹を造り、この麹を熟成させ、酵母の力も借りながら造られます。
その他、お酢や味醂などにも、麹菌は深く関わっています。
種麹屋では、お酒用、醤油用など、その製品にあった種麹が販売されているそうで、現在も約10件の種麹屋さんが「もやし」を生産し続けています。
3.麹菌と酵素
ここまで麹菌についてみてきましたが、麹菌が持っている成分の分解や合成などの機能は、主に、酵素と言われる物質が担っています。麹菌は、酵素を生成する力が優れていることから、とても有用な菌になりました。
3-1 酵素とは
酵素とは、体の中で分解や合成を仲立ちするたんぱく質で、人間や動物、植物などあらゆる生命体の体内で生成され、生命活動のため様々な役割を担っています。
例えば、食物は、胃壁から分泌されるペプシンという酵素によって、たんぱく質の大きな断片に分解され、次に、十二指腸で、すい臓から分泌されるトリプシンやキモトリプシンという酵素によって、さらに小さな断片に分解されます。
(注:上記たんぱく質分解酵素は総称して「プロテアーゼ」と呼ばれることもあります。)
最後に小腸で分泌されるペプチターゼという酵素によって、アミノ酸に分解されます。
3-2 麹菌の酵素生成力
麹菌は、酵素生成力が優れており、食品のみならず医薬品や洗剤、化粧品などの基礎を提供しています。
麹菌から生成される主な酵素は以下の通りです。
・デンプン分解酵素「アミラーゼ」:デンプンなどに作用してブドウ糖を生成します。日本酒やビールの醸造、製パン、医薬品への添加(消化剤)などに用いられます。
・たんぱく質分解酵素「プロテアーゼ」:味噌・醤油の製造、製パン、チーズの製造、医薬品(消化剤、抗炎症剤)などに用いられています。
・脂肪分解酵素「リパーゼ」:油脂をグリセリンと脂肪酸に分解します。チーズの熟成、プロテアーゼとともに洗剤への使用や、医薬品(消化剤)などに用いられます。
4.麹菌の美肌効果

日本酒造りでは、均等な発酵を促すため、手作業で麹を反転させたりします。このためか、職人さんは、白くてシミが少ない艶やかな手をしている人が多いそうです。科学的根拠はこれからのようですが、麹菌が生成するポリフェノールなどの抗酸化成分がお肌の酸化を防止しているためと考えられているようです。
5.まとめ

前作「和食はダイエットに良い?」を書いているときから、麹菌についてもっと知りたいと考えていました。
麹菌は、しらべるほど奥が深く、本コラムは基礎の基礎で終わってしまいました。これからも注目していきたいと思います。
また、多くの方々が、菌について研究を重ねていることを知り、本コラムの参考にさせて頂いたことについて御礼申し上げます。
「微生物に頼んで裏切られることはない」というくだりは、とても印象的でした。
腸内フローラの改善などもそうですが、わたしたちの健康にとって、菌といかに上手に付き合っていくかはとても大切、と思うからです。
<主要参考文献>
丸山工作 丸山敬 生命科学入門 東京教学社 2003年
坂本 卓 発酵食品の科学 日刊工業新聞社 2012年
北もと 勝ひこ 和食とうま味のミステリー 河出書房新社 2016年
小泉 武夫 絵でわかる麹のひみつ 講談社 2015年
一島 英治 酵素 東海大学出版会 2001年
